京都市上京区にある引接寺こと千本ゑんま堂は、地獄の象徴である閻魔大王を祀ったお寺。
しかも、その大きさは高さ2.4メートルと超巨大。
普通、お寺にある仏像といえば穏やかなイメージですよね。
不動明王なんかはめっちゃ怒ってますが、それでも『まぁ仏様だし』っていう安心感があります。プロレスラーが恐妻家みたいな。
地獄の閻魔寺に行ってきました!
夏の京都で地獄めぐり。千本ゑんま堂の閻魔像
京都の市バス=難しいっていう先入観があるから、ちゃんと乗れるのか初っ端からドキドキ。
そもそも「乾隆校前」が読めない。(乾隆校前でした)
引接寺がある『千本通』は、かつて埋葬地へと向かう道でした。
通り沿いには死者を弔う為に千本もの卒塔婆が立てられ、その様子が地名になったといわれています。
由来は物騒ですが、現在は個人商店が並ぶ地域密着型の商店街になっています。
こんな場所に本当に巨大な閻魔像があるんだろうか。
中に入るといきなり左右に地獄絵図。
痛み具合と薄暗さの相乗効果で地獄感がすごい。
地域の生活空間の中に突如現れる地獄。
ならば、正面に控えるこの目力強めな仏像も地獄関係者なんだろうか…
と思ったら、びんずる尊者というお釈迦様の弟子の一人で、体の悪いところと同じ部分を撫でると病気が治るそうです。見た目で判断してはいけない。
一万倍のご利益茶碗
閻魔像のパネルが張り付けられたお賽銭箱の上にある大きな湯飲み。
なんと!この湯飲みにお賽銭を投げ入れる事ができると1万回お参りしたのと同じご利益が得られるようです!
こういう『楽してご利益ゲット』みたいなことすると、昔話ではたいがい罰が当たるものですが、ここは閻魔様がOKって言ってるんだから安心。
さっそく投げた10円玉は惜しくもなんともない場所に当たり、そのまま下のお賽銭箱にイン。
でも小銭はまだある!まだチャンスはある!
万倍のご利益に目がくらみ賽銭を投げ続ける欲深き者はお賽銭を搾り取られます。
まさに地獄らしいシステム。
閻魔像が鎮座する内陣の扉は閉まっていて、少しだけ隙間が開いているけどあまりよく見えません。
昇段料500円を払うと本殿に上がって目の前で拝観する事ができます。
寺務所へ行くと食事中の張り紙がされていたので、先に境内を見て回ることにします。
キーパーソン小野篁と紫式部の供養塔
引接寺の境内には紫式部の供養塔が建っています。
紫式部といえば源氏物語。
『源氏物語』(げんじものがたり)は、平安時代中期に成立した日本の長編物語、小説。主人公の光源氏を通して、恋愛、栄光と没落、政治的欲望と権力闘争など、平安時代の貴族社会を描いた。
当時の人々を魅了した大ベストセラーを引っ提げて堂々あの世入りを果たした紫式部。
『でも、源氏物語って全部ウソでしょ?』という身もふたもない一言で地獄行きとなります。
妄語(嘘)の罪は重く、行き先は地獄の中で二番目に厳しい大焦熱地獄。
その事実を知ったのが、あの世とこの世を行き来し閻魔大王に仕えたとされる小野篁でした。
女のウソは許すのが男だ!(ドンッ!!)
と言ったか言ってないかは定かではありませんが、小野篁は閻魔大王を説得して紫式部を地獄から救ったといわれています。
そして、ここ引接寺を開基したのも小野篁なのです。
引接=引導という意味で、死者に引導を渡す為に閻魔像を祀る祠を建てたのが始まりだそうです。
元の閻魔像は応仁の乱で焼失し、現在は室町時代に再建された閻魔像が祀られています。
どうやら閻魔大王からかなりの信頼を得ていた小野篁は、先祖の霊を再びこの世へ迎える精霊迎えの法儀まで授かります。
旧盆に迎え鐘をついて水塔婆を流すお精霊迎え(おしょらいさん)は、現在でも京都の夏の伝統的な行事として受け継がれています。
ついに!地獄の扉が開く時
寺務所を覗くとまだ食事中。奥の方で食卓を囲む姿が見えます。
どうも12時~13時までは昼休憩のようなので、これから行く人はこの時間は避けた方がいいかもしれません。
御朱印と閻魔像の拝観をお願いすると、『じゃあ御朱印を書いたら行くので、先に本堂に上がって待っていてください』とのこと。
本堂への入り口が左側にあるのは、裁判所をイメージした造りだからなのだそうです。
巨大な閻魔像を目の前で拝む瞬間をワクワクしながら待っていると、急に流れていたBGMが音飛びし始めました。
なにこれ怖い。
いやでも大丈夫。いざとなればきっと住職さんが飛んできてシャッシャって指で五芒星をきるあれとかやってくれるはず。
ふと腕が痒くなり、無意識に掻いた指に違和感を覚えて目をやると逃げ遅れた蚊が潰れていました。
殺生=等活地獄行き。
最悪のタイミング。
今すぐ弁護士を呼んでくれたまえ
そうこうしているうちに先ほどの職員さんがやってきて準備を始めました。
堂内は内側からカーテンが閉められ、外からは中の様子が一切見えなくなります。
内陣の扉が開かれ、いよいよ地獄の裁判が開廷します。
『まずは閻魔様に3回お焼香をしてください』と、いきなり裁判官である閻魔大王の目の前に誘導されます。これで完全に面が割れてしまった。
手を伸ばせば触れる距離で見上げる2.4メートルの閻魔像は圧が凄い。
見開かれた瞳には琥珀が使われているそうです。
『最初は怖い顔に見えるけど、帰る頃には不思議と優しい顔に見えると皆さんおっしゃるんですよ』とのこと。
そうなってほしいです。切実に。
閻魔大王の左側は司命尊。
こちらは検事の役割で、生前の行いが全て記録されたえんま帳を持っています。
職員さんが『きっと今日の参拝も記録してくれていますよ。』と声を掛けてくれたけど、目の前で蚊を潰したとは言えない…。
そして、閻魔大王の右側は司録尊。
こちらは書記の役割で、裁判の様子を記録しています。
司録尊の像には微かに朱色が残っていて、きっともともと3体共に豪華な装飾が施されていたんだろうということでした。
司命尊・司録尊の像の後ろには地獄絵図が描かれています。
この壁画と閻魔像はルイス・フロイスの日本史にも記録されているそうです。
写真には映っていませんが、傍には弘法大使の仏像も祀られていました。
実はここ引接寺は、高野山真言宗に属するお寺なんだそうです。
高野山奥の院には、高野山に参拝した回数を数えて閻魔大王に報告し、現世での罪をできるだけ軽くしてくれる数取地蔵尊というお地蔵さんがいます。
私それ知らなくてお墓のテーマパークやぁ~!って浮かれてたから手も合わせてないんだけど、一応参拝したってことになりますよね?
ちゃんと1カウントされてるんですよね?
えんま様の誤解とこんにゃく
本堂の天井は極楽浄土を表していて、極楽に咲く色とりどりの花が描かれています。
強面3人に生前の行いを責められながら、届かない頭上の極楽に手を伸ばす。
想像するだけで絶望的。
しかし、実は閻魔大王は地獄に行かせたいわけではないそうです。
怖い表情をしているのは地獄へ行かせたくない一心で必死に地獄の恐ろしさを説いているからなのだとか。
ちなみに、閻魔大王の好物がこんにゃくだって知ってました?
好物の理由は『裏表がないから』だそうです。
接客業の人が休日は人と喋りたくないみたいな。
なんだか急に親近感がわいてきました。
引接寺では毎年5月にゑんま堂狂言が奉納されます。
狂言には珍しくほとんどの演目にセリフがあり、面白おかしく演じられる喜劇だそうです。
どうにかして守ってあげたいのに平気で嘘ばかりつく人間を毎日相手にするストレスフルな閻魔大王にとって、年に一度の楽しみなのかもしれません。
引接寺(千本ゑんま堂) 御朱印
拝観時間 | 9時~17時 (12~13時はお昼休憩?) |
拝観料 | 無料 |
昇段料 | 500円 |
駐車場 | あり |
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